庭の花

高浜虚子





 深川正一郎君と私の二人は門口に立つた。石炭酸の臭ひがする、消毒をしたのだなと思ふ。臺所の方にマスクを掛けた女の人が二人許り見えた。私達は玄關を上つてそこに外套と帽子とを脱ぎ棄てて茅舍君の病室であつたところに行かうとすると、龍子君と廊下で逢つた。暫く座敷に坐つて改まつて挨拶をし、又棺のほとりに行つて見ると、一人の人が、庭に咲いてゐた白百合と鬼百合とを手折つて龍子君に手渡した。龍子君はそれを私に渡した。私は其一本を正一郎君に渡した。手に殘つたのを見るとそれは白百合であつた。それをどのへんに入れようかと思つたが、茅舍君の右の脇に置いた。正一郎君も同じく右の脇に置いた。それは別に意味があつたわけではなかつたが、詰め物の加減でそこが少し落窪んでゐて、そこに置くのが最も自然であつたやうに思ふ。又別に芭蕉の花が軸と共に※(「てへん+劣」、第 3水準 1-84-77)ぎ取られてそれが龍子君の手に渡された。龍子君はそれを左脇の方に入れた。そこは詰め物がかさばつてをつたが芭蕉の花が重かったのでごぼと沈んだ。私は別れを叙したいと思つて顏にかぶさつてゐる切れを取つていただきたいと言つた。一人の人がその切れをとつて呉れた。茅舍君の顏は少しむくみが來て居ると思はれたが、併しふだんの顏とあまり違つて居るとも思はれなかつた。少し頸を右にかしげてゐたが、これもふだんでもさうであつたやうに思ふ。私達は拜をした。切れは再び顏の上に覆はれた。





底本:「定本 川端茅舎句集」養徳社
   1946(昭和21)年9月15日発行

入力:蒋龍
2012年2月26日作成




●表記について