レオン

第5話

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二日後――

 「じゃあ、行ってくる、ラゴール」

 「おう!レオン、がんばってこいよ!」

昼過ぎ頃、レオンはラゴールの家を出た。

 

レオンには恋人がいることになっている。

‘仕事’をするためには、できれば夜出てもおかしくない理由が必要だったからだ。

 しかし、・・・・まっぴるまからなにをがんばれっていうんだか・・・///。

ラゴールはこのことに異常に見えるほど興味を示していたのだ。

‘用があるから夜抜けさせてくれ’、とそれらしく言ってみたところ、ラゴールは

えらく親切に、さらに、たまには店が暇なら昼抜けてもいいとまで言ってくれた。

それに、よく相手のことを聞いてくる。

 どこの娘だ?とか、美人か?とか気はいいか?とか・・・。

まるで親の心配だった。

ラゴール自身だいぶ昔に妻を亡くして以来、子供もいず、寂しかったのかもしれない。

見ず知らずのレオンを拾い、息子同然のようにかわいがってくれる。

 

 ・・・少々、・・・胸が痛むな・・。

 まあ、まだルドゥワ達があんたの名前あげないところをみると

 どうやら関わってないようだから良かったよ・・・。

 ・・・あんたを殺さずにすんでね。

 

今日は大市も終わり、すこしばかりゆっくりできる日

レオンは表向き仕事を休める嬉しさと、裏向き‘暗殺のあった夜’だけの外出を

さけるための計算高い心配で、家をでるのだった。

 

ぶらぶら歩きながら市場までやってくる。

昨日の大市最終日に比べると、半分もいないように思われるが、それでも

この大都市の市場は大勢の人がいた。

そんな中をレオンは買うわけでも見るわけでもなく歩いていく。

すぎゆく人がたまに声をかけてくるのを軽く返しながら。

 

 さて、と。どうしようかな・・

この市場は首都のど真ん中にあり、どこにいくにも通る場所だ。

用もないのに家をでると、レオンはいつもここに着てから行き先を決めていた。

以前は、たいていが・・

 ルデナの店に行っていたんだが・・

 今はあいつがいるからなぁ・・・

どこが嫌いというわけではないがなんとなく苦手であった。

しかも、いつかはアランと会いに行くことになってしまったので、

口裏を合わせにいかなければならない。

しかし、嫌なことほど後回しにしたくなるものだ。

 かといって・・

目だけであたりを見回す。

数人の女性があちらこちらでこっちを見ているのが見える。

 ・・よくまあ毎日やるもんだ。どうやって、オレがここにいるの知ってるんだか・・。

 

都市でのレオンの人気は、大商人の店子をやっているだけあって知れ渡るのも早く、

その帝国にはない異色がさらに拍車をかけ、それまで庶民の首位をしめてきた

アラン達と並ぶほどの勢いを示したいた。

それ以来、出かけるたびに過ぎ行く女がささやきあい、また追いかけてくる者までいる。

しかし、とうのレオンは、最初はよくアランとひっかけもしたが、今は、

よほどの女でなければ、もう飽きた、という心境であった。

 

 そう、よほどの女じゃないとな〜・・・

「!!」

ふと顔をあげた瞬間、目にその‘よほどの女’がとびこんできた。

 すっごい美人だ・・・。

数人をへだてた向うにその女はいた。

身をやつすように薄茶色のマントを頭からかぶり、身体もすっぽり隠しているが、

見え隠れする、まばゆい金髪、白い肌に線の細い涼しげな顔立ち。

女の気高さを表すような、しっかりと前をみつめる澄んだ藍の瞳が印象的だった。

そして、さらに美しさをひきたたせている耳や額のサークレットが女が、たたびと

ではないことを物語っていた。

 

レオンは我を忘れ、ずっと目を離せないでいた。

すると、女は視線に気づいたのか、きっとこっちを振り返った。

強い意志をたたえる碧眼の瞳がレオンをとらえた。

 美しいブルーサファイヤのような瞳・・・

 透きとおるように滑らかそうな白い肌・・・

 やわらかそうな小さな朱唇・・・

 一体誰だ・・?初めてみる女だ・・

すると、女はふいっと人ごみの中に姿を消した。

 「ま、待てっ・・・」

レオンは慌てて、その女を追いかけていた。

何故かは・・・わからなかった。

見え隠れする薄茶のローブを目印に追いかけ、人をかきわけていく。

もう少しで手が届く。

 

 やった!

やっと捕まえた。

レオンはその女の腕を掴むと、ぐいっと一気にひきよせた。

 「っつ!」

かすかに女が短い悲鳴をあげたが、決して腕を離しはしなかった。

正面からきっと見据えてくる女の顔を見つめた。

 ああ、やっぱり綺麗だ・・

 オレ、自覚なかったけど面食いだったのかな・・

一方、女は見知らぬ男にひっぱりあげられ、かなり不機嫌そうな顔をして

男をにらんでいる。

 「離せ。無礼者。いつもでそうしてるつもりだ。」

高くはないが、よく響く美しい声だった。

 「無礼・・?あんた何者だ?名は?」

ほうけたままレオンはぼうっと問うた。

 「人の腕をいきなり掴んでおいて、今度は尋問か?

 ・・・おまえ、ノン・ブルーアイズだな。おまえ達は私達を礼儀を馬でけちらす

 無作法者と非難するが、これもおまえ達の礼儀なのか?」

 「いや、悪い。・・・教えてくれるなら、離す。」

 「は、今度はおどしか?・・いいだろう。

 私の名はバルシネ。単なるブルーアイズだ。

 離せ」

バルシネと名乗る女は腕をふり、乱暴にレオンの手を振り払った。

 「悪かった。」

ようやく落ち着き、自己をとりもどしたレオンは素直に謝った。

バルシネは意外そうに目を丸くすると、ふ、と笑って、

 「昔の女にでも似ていたか?・・おまえの名を聞いておこうか?

 これも礼儀だったな」

 「ああ、オレは、レ・・シオン。シオン・デュランダーナ。

 見ての通りノン・ブルーアイズだ。」

 「出身は、と聞いても答えてはくれないだろうな。

 ・・・どこかで見た気もする。」

 「オレを?人違いだな。オレはない。

 あんたみたいな美人な女見たら忘れないね。」

 「くどいてるのか?」

口元を緩ませて笑う女の顔は一層美しかった。

 「まあな。ほめ言葉でもいいさ。事実だ。」

 「では、ありがたく受け取っておこう。

 用がないならこれで失礼するぞ。もういいな」

女はもう一度あでやかに微笑むと身をひるがえした。

 「あ、・・・」

 「ふふ、今は忙しいのでな。今度はゆっくり会いたいものだな。

 ・・なぜかまた会う気がするよ・・。」

女は人ごみの中へ消えていった。

 

レオンは全く見えなくなるまで薄茶のローブを見送ると、ぼーっとつったっていた。

 男のような、いや違う、けれど女々していない・・

 歯切れの良い、あれやかで、色彩溢れる・・・魅力的な人だ・・

 

 「よお」

 「!」

おかげでアランが背後から近付いてくるのに、またしても全く気づかなかった。

 「なんだよ、ぼーっとして!ついに頭いかれたか??」

からかうアランにレオンはまだ半分ぼーっとしたまま、

 「・・・そうかもしれない・・。」

アランはどこか遠いところを眺める親友を不審に見つめた。

 「???おーい、レオ―ン?」

 

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